トップページ > 空気と暮らしの研究所 > 株式会社資生堂研究員 岩田多絵さんが語る「室内環境管理のポイント」
冬の肌の乾燥には対策を取られている方が多いでしょうが、冬にはもうひとつ「冷え」による影響があります。
気温が低下し皮ふ温が下がると、からだの末端部にあたる肌から体内の熱が外に逃げないよう自律神経がはたらき、血流量が少なくなります。その結果、肌への酸素や栄養分の供給量が減り、細胞の活性力が弱まって代謝が悪くなります。同時に、血液が酸素を十分に含んでいないため血色が悪くなり、肌色が暗く見えるようになります。つまり、冷えによって肌の元気がなくなるばかりか肌色がくすんでしまい、質的にも見た目の面でも、健康的な肌から遠ざかってしまいます。
お客様の実感としては冬の肌の状態のほうが気になるという方が多いようですが、実は夏のほうが肌の状態がよくないこともあります。人間の体温は、外気の温度が変化してもほぼ一定に保たれていますが、皮ふ温は外気の影響を受けて変化します。外気が暑くなり皮ふ温が4℃上昇すると皮脂量が2倍になることが分かっています。皮脂や汗の分泌が多くなると肌がベタベタしたり、テカったりします。また、汗を拭くとうるおいを保つ働きをするNMF(天然保湿因子)や肌にとって必要な皮脂まで拭き取られてしまい、肌は裸のような状態になり、乾燥を加速させてしまいます。紫外線などで屋外のケアが気になる夏ですが、長時間いる室内の環境も考えると良いと思います。
私たちの体はほとんどが水分でできており、乾燥した外気にさらされることによって、水分が奪われていきます。これは夏でも冬でも同様です。特に風があると乾燥は進みます。ある実験で同じ湿度下で扇風機で風を当てると20パーセントほど湿度が下がってしまったという結果もありますが、風があるとやはり乾燥する状態にあります。外気の風の影響はもちろんのこと、室内の扇風機やエアコンの風あたりなども乾燥の原因となります。
まず、乾燥に注意していただきたいですね。加湿器などを利用しながら適度な湿度を保つよう、管理する必要があります。そして、肌の乾燥を防ぐためにもう一つポイントとなるのがエアコンなど空調の「風」。直接あたると肌をより乾燥させるので、風の強さや方向の調節もしっかり行うとよいでしょう。温度も、外気との差があまりにも大きいと、肌はもちろん自律神経が影響を受けるなど、からだにとっても負担になりますので、注意する必要があります。皮ふ温を下げすぎず血流量をそれほど低下させない、20~25℃くらいに室温を調節すればよいのではないでしょうか。
急速に温度や湿度が下がる環境に顔を直接さらすことになりますから、やはり肌によくないと思います。温度が下がると血流量が減り、肌の代謝が弱まります。とくに急激な温度低下は、肌にとっても、血流をコントロールする自律神経にとっても負荷になるため、望ましいことではありません。血流の状態をよくして肌のすこやかさを保つためには、こうした負荷をなるべく防ぐことも大切です。
室内の環境を24時間コントロールし、生活時間帯と就寝時の温湿度の差も生じないことから、肌にやさしいシステムだと思います。気になる風の問題が解消されている点もうれしいですね。適切な温湿度はもちろん、常に心地よい環境で暮らすことの精神的な充足も肌のすこやかさにつながります。美肌のためには、心のうるおいを保つことも大切です。生活の拠点となる家の中をいつも快適な環境にしておくことは、肌にとってもよいと思います。