トップページ > 空気と暮らしの研究所 > 医学博士 高橋 龍太郎先生が語るヒートショック予防
温度差が原因で、健康に悪い影響が及ぶことです。ひどい場合は失神したり心臓発作を引き起こし、死に至ることがあります。
風呂場が圧倒的に多いです。なぜなら、体全体が露出するのは入浴中だけだからです。いちばんの問題は脱衣所です。寒い時期は居間と脱衣所の温度差は20度近くにもなることがあります。脱衣所で衣服を脱げば、体表面積全体の温度が10~15度下がります。典型的パターンは、寒い脱衣所で血管が収縮して血圧が上がり、入浴してしばらくすると今度は血管が拡張して血圧が急激に下がり、そのために意識を失い、水をのんで溺死してしまいます。このように、血圧がジェットコースターのように大きく上下変動するのが危険なのです。
まずは高齢者がとくに注意すべきでしょう。高齢者は、体温の維持という基本的な生理機能が低下しているためです。高血圧や不整脈などの心疾患を持っている方も注意が必要です。高血圧の人も、血圧の激しい上下変動で、低血圧症が起きやすいです。そのために意識を失ってしまうのです。
死亡診断書には「ヒートショック」という死因はまったく出てこず、「溺死」や「病死」になってしまいます。ですから統計がなく、正確には分かりません。しかし、家庭のお風呂で溺死する人は年間3,000~4000人いるという厚生労働省の統計と併せて、1999年に東京消防庁と一緒に行った調査結果から推計したところ、その3~4倍の年間14,000人ぐらいが「ヒートショック」で亡くなっていると思われます。交通事故で亡くなる方より多いのです。そのうち10,000人ぐらいが高齢者でしょう。
たしかに、わが国の「溺死」の数は先進国の中でも断トツに多いです。欧米諸国の5倍程度です。「ヒートショック」という言葉も、日本でしか通じません。最大の原因は、日本人が風呂に入るのが好きなことでしょう。欧米のように、シャワーを浴びるだけでは満足できず、お湯につかってリラックスする文化があるためです。もう一つは、気候がわりと温暖な地域が多いので、温度管理が夏中心になっていて、冬場になると家の中の温度が下がってしまうことが関係しています。逆に、北海道のように極めて寒い地域では住宅の断熱度が高く、室温の季節変動が小さいため、「ヒートショック」が起きにくいのだと思います。
家の中の温度差をなくすのがいちばんです。温度差をなくすことができれば、「ヒートショック」は確実に防げます。住宅用の「全館空調システム」は効果的な方法の一つだと思います。またほかの方法として、脱衣所に暖房器具を置くなどの対策をとるべきです。入浴前に熱いシャワーを5分間出して、浴室を温めておくだけでも効果があります。もう一つ私がお勧めするのは、夕食を食べる前、日没前の入浴です。外気温があまり低くならないうちに入浴するという理由と、人間のホルモンのリズムのピークは午後2~4時ごろなので、生理機能が落ちないうちにという理由で、明るいうちの入浴を勧めています。食後1時間以内や飲酒時も、血圧が下がりやすくなるため、入浴しないほうがよいです。お湯の温度は、人によって影響が異なりますが、41度以下にしておくのが比較的安全です。42度は微妙です。38度とか39度にすべきだという意見もありますが、日本のように断熱レベルの低い家屋でそのように低い湯温では体が温まらないので、実際にはむずかしいのではないでしょうか。公衆浴場や温泉に行って入浴するのもよいでしょう。なぜなら、ほかの人が周りにいますから、溺れそうになったり倒れたりしたときに助けられる可能性が自宅より高くなるためです。